篠原美琴

取引先男に悶える女上司秘書(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:手が触れ合う個別打ち合わせの息遣い

美咲はオフィスのデスクで、次回のミーティング資料をまとめていた。怜子のプロジェクトは順調で、浩司の会社との連携が鍵を握る。28歳の彼女は、怜子の秘書として5年。感情を表に出さないのが信条だったが、前回の喫茶店での無言のコーヒーシェアが、頭から離れなかった。あの指先の距離、浩司の穏やかな視線。怜子の不在が作り出した、ほんの少しの隙間が、美咲の胸に小さな疼きを残していた。

怜子が声をかけ、個別打ち合わせを指示した。

「浩司氏とはあなた一人で。プロジェクトの詳細を詰めておいて」

美咲は頷き、会議室を予約した。怜子は別の予定で不在。心の中で、微かな緊張が走る。浩司は42歳の営業部長。落ち着いた物腰に、どこか引き込むような深さがあった。前回の視線が、資料の数字のように鮮明に蘇る。

浩司が時間通りに現れた。スーツ姿は変わらず、穏やかな笑みを浮かべている。美咲はドアを開け、席に案内した。テーブルの上には資料が並び、プロジェクターの光が部屋を淡く照らす。二人は向かい合い、怜子のプロジェクトについて話し始めた。

「怜子部長の提案通り、こちらのデータで進めます。この部分、売上予測の変動が……」

美咲の説明に、浩司は静かに頷く。視線が資料を行き来し、時折彼女の顔に留まる。怜子のプロジェクト話はスムーズだったが、自然と個人的な話題に移った。

「美咲さん、怜子部長の秘書を長くされてますね。忙しくないですか」

浩司の声は低く、穏やか。美咲は資料から目を上げ、微笑んだ。

「慣れました。怜子さんのスケジュール管理が主です」

会話が途切れ、ためらいの沈黙が訪れた。浩司が資料を指でなぞり、美咲も同じページを探す。二人の手が、テーブルの上で近づく。資料の端を揃えようと伸ばした指先が、触れ合った。柔らかな感触。美咲の息が、わずかに乱れる。浩司の手は温かく、すぐに引かなかった。彼女の視線が、彼の手に留まる。心臓の音が、静かな部屋に響くようだった。

浩司は静かに手を動かし、資料を美咲の方へ滑らせた。彼女も無意識に指を添え、二人は並べて見直す。沈黙の中、手の甲が再び触れる。美咲の肌が、熱を帯びるのを感じた。浩司の息遣いが、近くで聞こえる。穏やかだが、少し速い。怜子のプロジェクトのはずなのに、この距離が個人的な何かへ変わりつつある。

沈黙が続き、美咲は資料を並べ替えるふりをして、手を引いた。浩司がくすりと小さく笑う。無言で資料を一つずつ揃えていく様子が、まるで二人だけの小さなゲームのよう。美咲も内心で微笑んだ。怜子の不在が、またしても空気を軽やかに変えていた。このユーモアが、緊張を和らげ、代わりに期待感を募らせる。

浩司の視線が、再び美咲に絡む。穏やかだが、深く。彼女の首筋を、ゆっくりとなぞるように。美咲は視線を逸らさず、資料の数字を口にするが、声が少し柔らかくなる。浩司の指が、テーブルの上で軽く動く。さっきの触れ合いが、残像のように残っている。息遣いが、互いに聞こえる距離。美咲の胸が、静かに疼いた。このまま、怜子のプロジェクトを超えた何かが生まれる予感。

話題が怜子の過去の成功事例に戻り、二人は笑みを交わす。浩司の目が、彼女の唇に一瞬留まる。美咲はそれを意識し、唇を軽く湿らせる。ためらいの空気が、甘い緊張に変わる。浩司が身を少し乗り出し、資料を指差す。その時、二人の膝がテーブルの下で触れそうになる。美咲は足を引かず、ただ視線を合わせた。

「このデータ、怜子部長の洞察が光りますね。でも、美咲さんの説明で、よりわかりやすい」

浩司の言葉に、褒められた喜びが混じる。美咲は小さく頷き、心の中で思う。この距離、怜子の影のない今、浩司の視線が自分だけに向けられている。期待感が、静かに膨らむ。

突然、怜子からの電話が鳴った。美咲はハンドルを握り、スピーカーに切り替える。怜子の声が部屋に響く。

「進捗はどう? 追加で夜間作業が必要かも。浩司氏もお願いね」

浩司が頷き、美咲も了承する。電話が切れると、二人は顔を見合わせた。怜子の指示で、次は夜の作業室。浩司の視線が、去り際に深くなる。

「夜、楽しみにしてます」

その言葉に、美咲の心が大きく揺れた。怜子のプロジェクトのはずなのに、個人的な期待が募る。オフィスを出る浩司の背中を見送り、美咲はテーブルの上の資料に触れた。まだ温もりが残る感触。夜間作業で、何が起こるのか。彼女の息遣いが、静かに速くなるのを感じた。

(第2話 終わり)