この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:取引先男の視線に揺らぐ秘書
美咲は28歳の秘書だった。女上司である怜子の右腕として、毎日のスケジュールを完璧にこなすのが仕事。怜子は社内の誰もが認める有能な部長で、40代とは思えないシャープな美しさを持っていた。美咲自身も、怜子の指示を忠実に実行するプロフェッショナルとして、感情を表に出さないよう心がけていた。
その日、怜子の指示で取引先の浩司氏と初対面のミーティングがあった。浩司は42歳の営業部長。怜子から事前に聞かされていた通り、落ち着いた物腰の男性だった。会議室に入ると、怜子が美咲を紹介した。
「こちらが私の秘書、美咲です。資料の説明をお願いします」
美咲は丁寧に頭を下げ、プロジェクターのスイッチを入れた。浩司の視線が、資料の画面から自然に彼女に移る。説明を始めると、彼は静かに頷きながら聞いていたが、ふと目が合った。美咲の言葉が一瞬、途切れる。浩司の目は穏やかだが、どこか深く、彼女の表情をじっと捉えていた。
「このグラフは、来季の売上予測を基に……」
声が少し震えたわけではない。でも、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。浩司はただ、資料を指でなぞりながら、時折視線を上げて美咲を見るだけ。怜子が隣でメモを取っているのが、かえって空気を重くする。美咲は資料をめくる手を、意識的に落ち着かせた。浩司の視線は、決して露骨ではないのに、彼女の首筋をなぞるように感じられた。
ミーティングが終わり、怜子が席を外した隙に、浩司が口を開いた。
「怜子部長の秘書さん、とは思えないほど資料がわかりやすいですね。次回もお願いできますか」
美咲は微笑んで頷いたが、心の中で小さな波が立った。怜子の不在が、ほんの数分。浩司の視線が、怜子の影のない今、直接美咲に向けられている。彼女は視線を逸らさず、静かに答えた。
「もちろんです。追加のデータも準備しておきます」
怜子が戻るまでの短い時間、二人は資料の細部について話した。浩司の声は低く、抑揚が少ない。美咲は自分の息遣いが、わずかに乱れていることに気づいた。怜子が戻ると、ミーティングは終了。浩司は丁寧に挨拶し、去っていった。
その後、怜子の指示で浩司とのフォローアップのため、近くの喫茶店で待機することになった。怜子は急な電話で遅れるという。美咲はカウンターでコーヒーを二つ注文し、窓際の席で浩司を待った。店内は静かで、午後の陽光がテーブルに差し込む。
浩司が現れ、席に着いた。美咲は無言でコーヒーの一つを彼の方へ滑らせた。浩司は小さく微笑み、カップを受け取る。その瞬間、二人の指先が触れそうになり、美咲は息を潜めた。浩司はカップを口に運び、ゆっくりと飲んだ。美咲も同じく、自分のカップに視線を落とす。
沈黙が流れた。喫茶店のBGMが、かすかに聞こえるだけ。浩司がカップを置き、ふと美咲の顔を見た。彼女は視線を感じ、ゆっくり顔を上げた。二人の目が絡む。浩司の瞳に、穏やかな光が宿っている。美咲の胸が、かすかに疼いた。
「このコーヒー、怜子部長の好みですか?」
浩司の言葉に、美咲は小さく首を振った。
「いえ、私の……好みです」
浩司はくすりと笑った。無言のコーヒーシェアが、予想外に軽やかな空気を作っていた。美咲は内心で微笑んだ。怜子の不在が、こんなにも二人の距離を近づけているなんて。
怜子から連絡が入り、美咲は席を立った。浩司も立ち上がり、名刺を渡す。
「次回のミーティング、楽しみにしています」
その言葉に、美咲の心が微かに揺れた。浩司の視線が、去り際に再び絡みつく。怜子のプロジェクトのためのはずなのに、なぜか個人的な期待が芽生えていた。オフィスに戻る足取りが、いつもより少し軽い。次回のミーティングで、何が起こるのか。美咲は、静かにその予感を胸にしまった。
(第1話 終わり)