藤堂志乃

妊婦受付嬢のメスイキ悶絶(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:妊婦受付嬢の温かな問いかけ

 一週間が、健司にとっては永遠のように長く感じられた。あの柔らかな感触が、指先に残ったままだった。産婦人科の待合室に入ると、いつもの穏やかな空気が彼を迎える。だが今日は、遥の姿を探す心が、先走っていた。カウンターに近づくと、彼女はそこにいた。妊娠8ヶ月目を迎えたらしい遥の腹部は、さらに優しい膨らみを増し、マタニティ服の生地がその曲線を優しく撫でるように寄り添っている。29歳の彼女の顔立ちは、穏やかさを増し、瞳に静かな輝きを宿していた。

 健司は予約票を差し出しながら、声を抑えて挨拶した。遥の視線が上がり、微笑が広がる。あの第1回の出会い以来、互いの視線には、何か共有された秘密めいたものが宿るようになった気がした。

「佐藤さん、こんにちは。お元気でしたか? 今日はいつもの先生で」

 遥の声は、柔らかく親しみを帯びていた。健司は頷きながら、彼女の指先がキーボードを滑る様子を、つい見つめてしまう。妊娠の影響か、彼女の動作はゆったりとしていて、それがまた心をざわつかせる。診察を終え、再びカウンターに戻る頃には、健司の胸に小さな期待が膨らんでいた。雑談が、少しずつ増えていくこの時間が、待ち遠しい。

 この一週間で、健司は何度か遥のことを思い浮かべていた。夜、ベッドで目を閉じると、彼女の膨らんだ腹の輪郭が浮かぶ。あの温もりが、どんな感触なのか。自分はただの患者なのに、なぜこんなに惹かれるのか。内面の揺れを、日記に綴ってみた。「遥さんの手が触れた瞬間、心臓が妊婦の胎動みたいに跳ねた」と。……ふと気づく。あの日記、明日の朝読んだら「胎動」って言葉で自分が妊娠した妄想に陥りそうだ。そんな内省ジョークが、健司の独り言のように頭をよぎり、わずかに笑みを浮かべさせた。

 予約票を受け取る時、遥がふと顔を上げた。

「佐藤さん、最近よくいらっしゃいますね。何か特別なご相談事でも?」

 その言葉に、健司の心が揺れた。彼女の瞳は、ただの事務的なものではなく、優しい探るような光を湛えていた。健司は一瞬言葉に詰まり、軽く首を振ったが、遥は微笑を崩さない。診察の回数が増えるにつれ、こんな短いやり取りが自然になっていた。彼女の妊娠の話――胎児の動きを感じる喜び、夫の不在がちな日常のささやかな幸せ――を、遥は時折ぽつりと語るようになった。健司はそれを聞きながら、自分の内側で何かが溶けていくのを感じていた。彼女の声は、待合室の空気を柔らかく変え、健司の孤独を優しく包み込むようだった。

 その日、閉院間際の時間帯だった。待合室はすっかり静まり、他の患者も帰った後。健司は次回の予約を入れにカウンターへ寄った。遥は立ち上がり、ゆっくりと体を動かしながら画面を確認する。妊娠後期の彼女の動作は、重みを湛えていて、それがまた健司の視線を惹きつけた。カウンター越しに、遥の膨らんだ腹が近づく。息が、わずかに触れ合う距離。

「佐藤さん、少しお疲れのようですね。顔色が……」

 遥の言葉に、健司は驚いて顔を上げた。彼女の瞳は、心配げにこちらを見つめている。健司は、つい本音を漏らした。

「実は……最近、仕事のストレスが溜まって。眠れなくて、ここに来るのが唯一の息抜きみたいで」

 言葉が出た瞬間、後悔がよぎった。だが遥は、静かに頷き、カウンターから身を乗り出すようにして手を伸ばした。彼女の細い指が、健司の手の甲にそっと触れる。温かく、柔らかな感触。妊娠中の肌のしっとりとした湿り気が、じんわりと伝わってくる。健司の心臓が、激しく鼓動した。触れられているのは手だけなのに、体全体が熱を帯びる。

「大変ですね。私も、妊娠してから体調の波が激しくて……でも、誰かに話すだけで、少し楽になりますよ。何か、もっとお話しになりませんか?」

 遥の声は囁くように低く、互いの吐息が混じり合う近さ。彼女の瞳に、優しい光が宿り、健司の内面を静かに受け止めるようだった。健司は、彼女の手に自分の指を重ねた。合意の合図のように、自然に。遥の指先が、軽く絡みつく。そこに、ためらいと期待が交錯する。彼女の膨らんだ腹が、カウンター越しにわずかに触れそうで、健司の息が止まる。温もり。生命の鼓動が、伝わってくるような錯覚。

 遥はゆっくりと手を引き、微笑んだ。だがその指先は、健司の背中の方へ、そっと滑るように近づく予感を残した。閉院後の静かな医院で、二人の距離は、確実に縮まっていた。健司の胸に、抑えきれない期待が膨らむ。この温もりが、次にどんな深みを呼ぶのか。

 遥の視線が、再び絡みつく。「また、来てくださいね。待っていますから」

 その言葉に、健司の心は高鳴った。次は、閉院後の診察室で。何かが、始まろうとしていた。

(第3話へ続く)